コラム「ひきこもり支援の現場から」第8回

ひきこもり支援コラム|トップタイトル

人おこし事務局長の能登が、美作市社会福祉協議会の広報誌「はい!社協です」に連載しているコラム「ひきこもり支援の現場から」。若者たちと過ごす日々の中で感じることを、少しずつコラムとして綴っています。社協さんに快く許可をいただきましたので、こちらのウェブサイトにも掲載いたします。

コラム「ひきこもり支援の現場から」第8回

急がば道草を食いまくれ!


前回は社会のバッファ(ゆとり)のお話しをしましたが、今回は私たちの「心のバッファ」についてです。

先日、入居して1年になるA君が「アルバイトを始めたい」と相談に来ました。

これまで学校や就職活動で何度も失敗を重ねてきたA君。彼に対する一般社会の手当は、「適性診断」「就労支援」「就労訓練」でした。でも人おこしはその正反対。誰も「働け」とは言いません。自由にやりたいことができる環境を整えて、あとは待つだけ。

そうしたら、ほらやっぱり!自分からやってきました。

「友だちもできたし、やってみたかったバンド活動もできたし、今なら働ける気がします」と。

勉強して、卒業して、就職して、稼いで、一人前に。社会が求めるのはこの直線道路。本人もそうでなければならないと必死でもがく。でもなぜか前に進めなくなる。その現れの一つが「ひきこもり」です。

Aくんが人おこしで過ごした1年間は、その直線道路の脇に生えている花を愛でたり、ときに立ち止まって空を見上げたり、道端で出会った人とおしゃべりしたり、いわば「人生の道草」です。そういう道草が、彼の心に「バッファ(ゆとり)」を育んでくれて、そしていつの間にか、真ん中の道路をしっかりと踏み固めてくれていたのです。

人おこしに来る若者たちの多くはコミュニケーションが苦手です。でも考えてみてください。ずっと直線道路しか歩いたことのない彼らには「バッファ」がありませんから、話題の引き出しがないんです。話題がなければおしゃべりも楽しめません。

実際、世界中のどの文化にも必ず音楽やアートが含まれています。住居を建てて食料さえ確保すれば生きていけるはずなのに。これは、人間が本質的に音楽やアートなどの「心のバッファ」を必要としていることを意味しているのではないでしょうか。

だから人おこしシェアハウスでは、彼らの心に十分な「バッファ」ができるまで、しっかりと道草をしてもらいます。そして卒業する頃には、見違えるように幅広くしっかりと舗装された自分の道路を踏みしめて、彼らは次の旅路へと歩を進めていきます。

ちなみに私は、Aくんのバンドでベース担当。私自身も全力で道草中です。笑

美作市社会福祉協議会発行「はい!社協です」 2023年7月号