人おこし事務局長の能登が、美作市社会福祉協議会の広報誌「はい!社協です」に連載中のコラム「ひきこもり支援の現場から」。若者たちと過ごす日々の中で感じることを、少しずつコラムとして綴っています。社協さんに快く許可をいただきましたので、こちらのウェブサイトにも掲載いたします。
コラム「ひきこもり支援の現場から」第5回
卒業、旅立ち、そして伝説へ
ひきこもり支援をしていてよく聞かれるのが、卒業後のことです。
「ちゃんと働けるようになるんか?」「自分で稼げにゃ自立とはいえんじゃろう」などなど。
実際、ひきこもり支援の「成果」は通常、就職実績で評価されます。では人おこしの「成果」を見てみましょう(下図)。
う〜ん、就職できているような、できていない人もいるような・・。でも私は、このグラフはたいして重要ではないと感じているんです。
人おこしシェアハウスに入居すると、週に何回か料理当番が回ってきます。それもなかなかハードな当番です。まずはメニュー決めから始め、分量は10〜15人分、しかも「古くなった野菜から」「ネギがないから代わりに〜」「〜さんは辛いの苦手」などの小難しい条件も。当番同士で役割分担、初心者への気遣いも必要、ボールや鍋を洗って、最後はシンクの掃除、布巾の洗濯、入居者全員に「ご飯できました」の連絡をする頃にはもうへとへとです。その他、掃除当番、農作業や炎天下の草刈りもあれば、仲間たちとお出かけしたり、深夜まで一緒にゲームをしたりという若者らしい日常もあります。
そんなシェアハウス生活を経て、先日Aくんは一人暮らしを始めました。就職?いえ、できていません。収入は週2回のアルバイトで月5万程度。だからAくんは、経済指標で言えば「年収60万の生活困窮者」です。「そんな状態じゃ卒業とは言わんじゃろう」って思われるかもしれません。
でも、みなさんならもうおわかりですよね。そう、ドラクエに例えましょう。笑
人おこしで1年間の経験値を積んだAくんは、もはや「レベル1、布の服」ではありません。「レベル8、鎖かたびら、短剣、薬草3つ」くらいの力と装備を持って、次の街へと冒険に出たんです。いざとなれば一緒に戦ってくれる仲間もいます。経済的なものさしで見たAくんとは、だいぶ様子が違いますよね。
私たちのシェアハウスの目的は「就職」ではありません。日々の生活の積み重ねを通じて、生きていく上で大切なアイテムを手に入れることなんです。
「最低限生きていける自信はつきました」卒業時のAくんの頼もしい言葉が、それをよく物語っていると思いませんか?
美作市社会福祉協議会発行「はい!社協です」 2023年1月号